持たなくてもいい荷物
持たなくてもいい重い荷物を、誰にも頼まれもしないのに一生懸命ぶらさげていないか。
中村天風『一日一話』
大学を卒業して、実家に帰ってきたとき、どうにも前向きになれなかったのを覚えている。
仕事も決まり、家族と暮らし、慣れた土地で落ち着いて暮らすことに何の不満があると言うのだろう?
私にはやることが山積みだった。
祖父母は高齢で、週に一度仕事終わりに必ず立ち寄ったし、何か必要なものはないかとお菓子や飲み物を買って持って行った。
祖母からは「そんなことしなくていいんだよ」と言われて、必ずまた何かお返しをくれた。
行事や法事のたびに親せきの家に行き、人の様子を気にかけて、なんとか役に立とうと必死だった。
なぜなら私が地元に帰ってきた理由は、家族のために働くことだったから。
無償の労働力を提供することが、自分の存在意義だと思っていた。
そうしなければならないと強く思っていた。
ある時、私の大切な人が死んだ。家族でもあり、親友でもあり、私の地元での心のよりどころだった大切な人が、逝ってしまった。
悲しむ暇もなく続く作業、手伝い。酒のつまみに対して文句を言われること。
その時の法事は、これまでの中で一番つらく、一番悲しく、一番失望した。
その時初めて気づいたのだ。
ああ、別に私がここにいなきゃいけない理由なんて何一つないなと。
自分が望んでいないのに、他人のためという理由をつけて居座って、
誰かのせいにして自分の人生を生きないことへの言い訳だ。
こうでなければいけないことなんて何一つない。
持たなくていい荷物を背負い込んで前へ進めないなら、おいて行けばいいのだ。
身軽になると、何も持っていないことに不安を感じるけれど、
何も持っていないということは、これから自分の好きなものを持てるということだ。
さぁ、今度はきっと、自分の好きなものだけをもつのだ。
自分が欲しいと思ったものを。
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